セクシャルハラスメントに対する企業対応
職場で起きたセクハラ(セクシャルハラスメント)に対して,なぜ企業が対応する必要があるのか?
企業が職場でのセクハラに対して,十分な対応をしなかった場合,企業は,セクハラの被害者から債務不履行責任や不法行為責任を問われ,損害賠償責任を負う可能性があります。また,セクハラ行為者に対する企業の処分が適切でなかったために,セクハラ行為者から処分の有効性を争われ,損害賠償責任を問われる可能性もあります。さらには,男女雇用機会均等法の措置を適切に行っていないとして,行政庁により企業名が公表され,過料の制裁に処せられる可能性があります。
企業としては,セクハラに対して,十分に対応することが,セクハラを原因とする企業の不利益を最小限に留めることができます。
セクハラ発生前の企業の対応
まず,企業としてセクハラが発生しないような事前対策を講じる必要があります。事前対策を講じることで,職場環境を整える義務違反として企業が責任を負いにくくなるだけでなく,セクハラの行為者に相応の処分を下すことが可能になるからです。
企業のセクハラに対する事前対策として,厚生労働省が指針として挙げている,⑴セクハラ禁止の周知啓発⑵セクハラに対する厳正対処の周知啓発⑶相談窓口の設置⑷相談窓口の適切な対応を採るよう努める必要があります。
⑴~⑷の具体的な措置の例は,以下のとおりとなります。
⑴セクハラ禁止の周知啓発
・企業のトップにおいてセクハラ防止のメッセージを管理・監督者を含む労働者に発信
・何がセクハラにあたるのかの教育研修を労働者に行うこと
⑵セクハラに対する厳正対処の周知啓発
・セクハラ行為者について,厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定
・管理・監督者を含む労働者にセクハラに対する方針・対処の内容を周知啓発
⑶相談窓口の設置及び⑷相談窓口の適切な対応
・相談者に配慮した時間や場所の確保
・相談窓口の存在を社内に周知すること
・適切な相談者を複数人指名
・相談者と同性の相談員を同席させること
・相談は原則面談で,相談者の意向次第で,その他の相談方法にも応じること
セクハラ発生後の企業の対応
職場においてセクハラが発生した場合,企業が責任を追及されないよう迅速かつ適切な対応をとる必要があります。職場におけるセクハラ発生に対する対応として,厚生労働省が指針として挙げている,⑸事実関係を迅速かつ正確に確認すること,⑹速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと,⑺行為者に対する措置を適正に行うこと,⑻再発防止に向けた措置を講ずることといった指針に沿った対応をとる必要があります。⑸~⑻の具体的な措置の例は以下のとおりとなります。
⑸事実関係を迅速かつ正確に確認すること
・被害者だけでなく,セクハラの行為者からもヒアリングを行うこと
・事実関係に齟齬がある場合には,第三者からのヒアリングも行うこと
・セクハラ行為に関する客観的証拠も確認,保全をすること
⑹速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと
・被害者と行為者とができる限り接触しないよう環境整備をすること
・場合によっては被害者の配置転換も検討をすること
・被害者のメンタル不調への相談対応等の措置を講じて,企業が被害者に対して,職場復帰のための支援をすること。
⑺行為者に対する措置を適正に行うこと
・懲戒処分を下す場合,就業規則に沿った懲戒事由および懲戒処分の検討
・懲戒処分については,相応の処分かの検討
・処分を下すうえで加害者に弁明の機会を付与すること
⑻再発防止に向けた措置
・職場におけるセクハラがあってはならない旨の方針の設定
・職場においてセクハラにあたる性的な言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を社内報,パンフレット,会社ホームページ等広報または啓発のための資料等に改めて掲載し,配布等すること
・セクハラに関する意識を啓発するための研修,講習等を改めて実施すること
セクハラに対して事前,事後を問わず採るべき対応
厚生労働省は,上記⑴~⑻までの措置と併せて,⑼相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ,周知すること,⑽相談したこと,事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め,労働者に周知・啓発することが必要であることを指針として挙げているので,これらの対策も講じる必要があります。
まとめ
以上のとおり,セクハラに対して,企業として対応しなければならない事項が多く,どの程度までセクハラ対策を講じなければならないのかといった悩ましい部分も存在します。
しかし,指針に沿って,1つ1つ対策を講じていくことが,企業の損失を最小限に抑えるために重要なことであるといえます。
当事務所ができること
セクハラ対応を疎かにしたために,企業を巻き込んだ紛争に発展し,企業に不利益が生じるおそれもあります。当事務所は,労働事件に関する十分な知識を有していることから,企業のセクハラに対する事前,事後の対応の仕方をより具体的に助言することで労働紛争を最小限に止めることが可能です。労働者のセクハラ問題の対処について悩まれたときは,速やかに当事務所にご相談ください。