ハラスメントが企業経営に及ぼす悪影響
パワハラが企業にもたらす損失
職場におけるハラスメントは、被害を受けた従業員だけでなく職場全体へ被害を与えることとなります。
中央労働災害防止協会による、東証1部上場企業(回答企業の約6割が製造業、約7割が従業員1000人以上)を対象とした調査(「パワー・ハラスメントの実態に関する調査研究報告書」)では、パワハラが企業にもたらす損失としては、「職場風土を悪くする」(約8割)、「周りの志気が低下する」(約7割)、「生産性が低下する」(約7割)等の結果が明らかとなっています。
会社が損害賠償義務を負う可能性があること
使用者は、雇用契約の信義則上の付随義務として、労働者にとって快適な就労ができるように職場環境を整える義務(職場環境配慮義務)を負っています。
そのため、使用者は、労働者に対するハラスメント等を服務規律で禁止してその発生を防止し、これらの非違行為が発生した場合には、是正措置を講ずべき義務を負っており、この義務を怠り、これにより被害者が損害を被った場合には、債務不履行責任等を問われることとなります。
具体的に使用者の債務不履行責任を認めた事例としては以下が挙げられます。
津地裁平成9年11月5日判決労判729号54頁
病院に勤務する看護師らが、上司によりセクシュアル・ハラスメントを受けた事案において、判決は、「使用者は被用者に対し、労働契約上の付随義務として信義則上職場環境配慮義務、すなわち被用者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮すべき義務を負って」いるとし、「被告上司には従前から日常勤務中特にひわいな言動が認められたところ、被告法人は被告上司に対し何も注意をしなかったこと、主任は……原告から被告上司との深夜勤をやりたくないと聞きながら、その理由を尋ねず、何ら対応策をとらなかったこと」等を述べ、使用者は従業員に対する職場環境配慮義務を怠ったとして使用者の債務不履行責任を認め、55万円の支払いを命じました。
福島地裁郡山支部平成25年8月16日判決
保育園の職員らが、上司から頻繁・執拗かつ継続的に暴言等を受けていた事案において、職員が理事長に対してこれらについて相談をしたものの、同理事長がこれに関して調査等をせず、その後においても、職員や保護者が、当該上司の暴言等について、市や県に対して度々相談をするなどし、市や県が被告らに対して指導等をするなどしたにもかかわらず、使用者は、この点に関してさしたる調査や対応等をすることもなかったばかりか、上司の暴言等について市に相談したことなどを理由として職員に対して不当な処分等に及ぶなどしていた点を指摘し、本件暴言等につき、適切な対応を講じていたものとは到底認められず、職場環境配慮義務を十分に尽くしていなかったと認定し、債務不履行責任を認めたうえ、損害賠償義務を認めました。損害賠償請求が認容された職員のうち、一番高額な認容額は33万円となっています。
当事務所でできること
このように、企業においてハラスメントが行われた場合には、職場能率が低下し、また、企業は職場環境配慮義務違反等を理由として損害賠償義務を負う可能性があります。そのため、日頃から、ハラスメントが行われないように配慮する必要があります。当事務所では、労働に詳しい弁護士がおりますので、お気軽にご相談ください。