パワーハラスメントに対する企業対応
職場で起きたパワハラ(パワーハラスメント)に対して,なぜ企業が対応する必要があるのか?
企業が職場でのパワハラに対して,十分な対応をしなかった場合,企業は,パワハラの被害者から債務不履行責任や不法行為責任を問われ,損害賠償責任を負う可能性があります。また,パワハラ行為者に対する企業の処分が適切でなかったために,パワハラ行為者から処分の有効性を争われ,損害賠償責任を問われる可能性もあります。さらには,企業がパワハラを放置しますと,生産性の低下や人材流出にも繋がるおそれがあります
企業としては,パワハラに対して,適切に対応することが,パワハラを原因とする企業の不利益を最小限に留めることにとどまらず,他のハラスメントの防止にも繋がり,結果的に職場環境の改善による生産性の向上にも繋がります。
パワハラ発生前の企業の対応
まず,パワハラが発生しないような事前対策を講じる必要があります。事前対策を講じることで,ハラスメントが生じないような職場環境が整うだけでなく,万が一パワハラが生じた場合に,企業が責任を負いにくくなることや,パワハラの行為者に相応の処分を下すことが可能になるからです。
企業のパワハラに対する事前対策のポイントとして,⑴企業からのメッセージ⑵パワハラに関する規定の整備⑶労働者へのパワハラに関する調査⑷パワハラ防止のための教育⑸組織としてのパワハラに対する方針や取組の周知・啓発といったものが挙げられます。
⑴~⑸の具体的な措置の例は,以下のとおりとなります。
⑴企業からのメッセージ
・企業のトップにおいてパワハラ防止のメッセージを管理・監督者を含む労働者に発信
・企業のホームページにも企業トップのパワハラ防止のメッセージを掲載すること
⑵パワハラに関する規定の整備
・どのような行為がパワハラに該当するのかを,就業規則や関係規定で明らかにすること
・パワハラ行為者について,厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定
・管理・監督者を含む労働者にパワハラに対する方針・対処の内容を周知啓発
⑶パワハラの実態調査
・パワハラの実態調査のためのアンケートを定期的に実施すること
・アンケートでは,①回答者が特定できない程度の回答者の属性(例えば,性別,年齢などの項目を設けるなど)②パワハラに関する知識の有無➂パワハラの実態(例えば,パワハラ行為の見聞きや,受けたことがあるかなど)といった項目を設けること
⑷パワハラ防止のための教育
・管理職自身がパワハラをしないよう指示することや,業務に必要な指示,適正な教育の仕方,部下にパワハラを起こさせない職場環境作りなどの研修
・従業員自身に対して,身近なパワハラの事例の紹介や,パワハラ防止のDVDの視聴,パワハラを受けたりまたは見聞きした場合の対応の仕方などの研修
⑸組織としてのパワハラの方針や取組を周知・啓発
・企業としてのパワハラへの対策を社内報やホームページで周知
・相談体制を整え,相談窓口の存在を社内に周知すること
パワハラ発生後の企業の対応
職場においてパワハラが発生した場合,迅速かつ適切な対応をとる必要があります。職場におけるパワハラ発生に対する対応として,⑹事実関係を迅速かつ正確に確認すること,⑺速やかに相談者に対する配慮の措置を適正に行うこと,⑻行為者に対する措置を適正に行うこと,⑼再発防止に向けた措置を講ずることなどといった対応をとる必要があります。⑹~⑼の具体的な措置の例は以下のとおりとなります。
⑹事実関係を迅速かつ正確に確認すること
・相談者から,誰から,いつ,どのような行為をされたのかなど具体的な事実をヒアリングすること
・相談者だけでなく,パワハラの行為者からもヒアリングを行うこと
・事実関係に齟齬がある場合には,第三者からのヒアリングも行うこと
・パワハラ行為に関する客観的証拠も確認,保全をすること
⑺速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと
・相談者の要望を確認すること
・相談者の意向にできる限り沿った環境整備をすること
・相談者のメンタル不調への相談対応等の措置を講じて,企業が被害者に対して,職場復帰のための支援をすること。
⑻行為者に対する措置を適正に行うこと
・懲戒処分を下す場合,就業規則に沿った懲戒事由および懲戒処分の検討
・懲戒処分については,処分が相応かの検討
・処分を下すうえで加害者に弁明の機会を付与すること
⑼再発防止に向けた措置
・職場におけるパワハラがあってはならない旨の方針の設定
・職場においてパワハラにあたる行為を行った者について厳正に対処する旨の方針を社内報,パンフレット,会社ホームページ等広報または啓発のための資料等に改めて掲載し,配布等すること
・パワハラに関する意識を啓発するための研修,講習等を改めて実施すること
パワハラに対して事前,事後を問わず採るべき対応
上記⑴~⑼までの措置と併せて,⑽相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ,周知すること,⑾相談したこと,事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め,自労働者に周知・啓発することも必要です。
まとめ
以上のとおり,パワハラに対して,企業として対応しなければならない事項が多く,どの程度までパワハラ対策を講じなければいけないのかといった悩ましい部分も存在します。
しかし,1つ1つ対策を講じていくことが,企業の損失を最小限に抑えるために重要なことであるといえます。
当事務所ができること
パワハラ対応を疎かにしたために,企業を巻き込んだ紛争に発展し,企業に不利益が生じるおそれもあります。当事務所は,労働事件に関する十分な知識を有していることから,企業のパワハラに対する事前,事後の対応の仕方をより具体的に助言することで労働紛争を最小限に止めることが可能です。パワハラ問題ついて悩まれたときは,速やかに当事務所にご相談ください。