民法改正に対応した請負契約書の作成にあたり注意すべき点

今回は、2020年4月1日に施行した改正民法に対応した請負契約書の作成にあたって注意するポイントをご説明したいと思います。

 

民法改正に対応した請負契約書の作成にあたり注意すべき点①

1 代金減額請求権行使前の追完請求の排除

改正民法では、仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合、一定の場合(請負人が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示した場合など)を除いては、注文者は、まずは、請負人に対し、相当の期間を定めて履行の追完(目的物の修補等)の催告をし、その期間内に履行の追完がない場合に、注文者は報酬の減額を請求することができます(改正民法559条、563条1項)。

そこで、注文者としては、直ちに減額請求できるように、「注文者は追完請求を行うことなく報酬の減額請求をすることができる」旨定めることが考えられます。

 

【条項例】

(契約不適合責任)

第◯条

1 乙(=請負人)から甲(=注文者)に引き渡された目的物が本契約の内容に適合しないものであるときは、甲は、乙に対し、目的物の修補その他の履行の追完を請求することができる。

2 甲は、前項に規定する場合において、前項の追完請求を行うことなく、自らの選択により、報酬の減額請求をすることができる。

 

一方、請負人としては、報酬減額請求を排除する旨契約書に記載することが考えられます。

 

【条項例】

(契約不適合責任)

第◯条

1 乙(=請負人)から甲(=注文者)に引き渡された目的物が本契約の内容に適合しないものであるときは、甲は、乙に対し、目的物の修補その他の履行の追完を請求することができる。この場合、甲は、乙に対し、報酬の減額請求はできない。

 

2 瑕疵修補請求

改正前民法は、請負に特有の規定として、仕事の目的物に瑕疵がある場合、注文者は、請負人に対して瑕疵修補請求ができるとしたうえで、その瑕疵が重要である場合には、その瑕疵に過分の費用を要するときであっても、請負人が修補義務を免れないとされていました(改正前民法634条1項)。

しかし、修補に過分の費用を要するときであっても、請負人において修補義務を免れないとすると、請負人の負担が過大となる点等を考慮し、改正民法では、この条文は削除されました。

そして、改正民法では、過分の費用を要するときは、社会通念上、修補は不能と扱われ(改正民法412条の2第1項)、請負人に修補請求することはできないことと考えられます。

このように解されていますが、この点を明確にすることで、契約書の記載で確定され、予測可能性を担保することが可能となります。

【条項例】

(契約不適合責任)

第◯条

1 乙(=請負人)から甲(=注文者)に引き渡された目的物が本契約の内容に適合しないものであるときは、甲は、乙に対し、目的物の修補その他の履行の追完を請求することができる。

2 前項にかかわらず、その修補に過分の費用を要する場合、乙は、前項の修補義務を負わないものとする。

 

3 履行の追完の選択権の排除

改正民法では、仕事の目的物が契約内容に適合しない場合、注文者は、請負人に対し、履行の追完を請求することができ、請負人は、注文者に不相当な負担を課さない場合には、注文者が請求した方法とは異なる方法での履行の追完(目的物の補修、代替物の引渡し又は不足分の引渡し)をすることができるとされています(改正民法559条、562条1項但書)。

注文者としては、自らが求めた方法とは違う方法で勝手に追完をされても困るということがありえます。例えば、注文者は代替品を要求しているのに、請負人が補修を選択してきたような場合あります。

そこで、後述のとおり、契約書に「注文者の指定した方法による追完」と定め、請負人による履行の追完方法の選択権をあらかじめ排除することが考えられます。

(もっとも、2で述べたとおり、注文者が指定した方法による追完が過分な費用を要する場合には、履行不能にあたり、注文者はその方法による追完請求をすることができません。)

【条項例】

(契約不適合責任)

第◯条

1 乙(=請負人)から甲(=注文者)に引き渡された目的物が本契約の内容に適合しないものであるときは、甲は、乙に対し、甲の指定した方法による追完請求をすることができる。

 

4 当事務所でサポートできること

このように、請負契約に関する改正事項は多岐にわたるため、民法改正に対応した請負契約書の作成にあたっては、専門的知識を有していることを要します。

当事務所では、民法改正に対応した契約書の作成・チェック業務を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

 

 

民法改正に対応した請負契約書の作成にあたり注意すべき点②

1 契約の解除

改正前民法635条では、「仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達成することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。」と規定されていました。

改正民法では、この規定が削除され、請負についても売買と同様に、催告をして解除をする場合には、履行の追完の催告から相当期間が経過した時において、契約の内容と適合せず、かつその程度が軽微でないことが要件とされました(改正民法559条、564条、541条但書)。

このように、軽微でない程度の契約内容の不適合であれば、その場合に契約目的を達成することができる場合でも、催告解除が可能となっています。

請負人としては、解除される場面を限定するため、改正前民法と同様に「契約をした目的を達成することができない」場合に限り契約解除を認める旨、契約書に規定することが考えられます。

【条項例】

(解除権)

第○条

乙(=請負人)から甲(=注文者)に引き渡された目的物が本契約の内容に適合しないものである場合、甲が乙に対し相当期間を定めて催告し、その期間内に乙が債務の履行をせず、そのために甲が契約をした目的を達することができない場合に、甲は、本契約を解除することができる。

 

2 中途終了の場合の報酬請求

改正前民法では、仕事が完成しなかった場合等において、請負人は注文者に報酬を請求することができるとする明文の規定はありませんでした。

改正民法では、判例を踏まえ、①注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合、又は②請負が仕事の完成前に解除された場合において、既にされた仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は、その利益の割合に応じて報酬を請求することができるとしました(改正民法634条)。

このように、請負人は中途で工事が終了した場合に割合的な報酬を請求することができますが、終了している工事の割合についての評価基準を契約書や別紙にて明確化しておくことで、当事者の予測可能性を担保することが可能となります。

【条項例】

第○条(中途終了の場合の報酬の支払い)

甲(=注文者)の責めに帰することができない事由によって本件業務が中途終了した場合(本契約が解除された場合を含む)、次のとおりとする。

1 乙(=請負人)は、すでに受領した報酬があるときは、これを甲に返還する。

2 乙は、甲に対し、本件業務の出来高を引き渡す。

3 甲は、乙に対し、別紙で定めた方法により算定される当該出来高に応じた報酬及び費用を支払う。

 

3 期間制限

改正前民法は、仕事の目的物に瑕疵があったときは、注文者は「目的物」の「引渡し」を受けた時又は「仕事が終了した時」から1年以内に瑕疵の修補又は損害賠償の「請求」及び契約の解除をしなければならないとしていました(改正前民法637条)。

しかし、改正民法では、注文者の負担を軽減する観点から、注文者は、目的物の不適合を「知った時」から1年以内にその旨を請負人に「通知」しなければ、その権利を行使することができないこととなりました(改正民法637条1項)。

もっとも、請負人が目的物を注文者に引き渡した時又は仕事が終了した時において、不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この期間制限は適用がないとしています。

このように、期間の起算点が「目的物を引渡した時」又は「仕事が終了した時」から「不適合を知った時」となる場合、期間の開始が注文者の認識にかかってくることとなり、請負人は、改正前民法よりも契約不適合責任を長期間免れない可能性があります。

そこで、請負人の立場からは、期間の起算点を改正前民法と同様に規定にする旨修正することが考えられます。

【条項例】

(期間制限)

第○条

甲(=注文者)は、目的物の引渡しの時又は仕事の終了の時から1年以内に、契約不適合を乙(=請負人)に通知しないときは、甲は、その不適合を理由として、第○条の追完請求権、第○条の解除権、第○条の損害賠償請求権及び第○条の請負代金減額請求権を行使することができない。

 

4 当事務所でサポートできること

このように、請負契約に関する改正事項は多岐にわたるため、民法改正に対応した請負契約書の作成にあたっては、専門的知識を有していることを要します。

当事務所では、民法改正に対応した契約書の作成・チェック業務を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

 

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