団体交渉における使用者の誠実交渉義務とは
団体交渉権について
労働組合は、労働者の待遇や労働条件の改善を目的として、使用者と交渉することができます。これを、団体交渉権といいます。
憲法28条は、団体交渉権を、団結権(労働者が団結して労働組合を結成する権利)、団体行動権(労働者がストライキをする権利)とともに憲法上の権利として保障しており、これらの権利をまとめて労働三権といいます。
使用者の誠実交渉義務って何?
労働組合に団体交渉権を保障しても、使用者が団体交渉を理由もなく拒否できるのでは、労働者が団体交渉を通じて、労働条件の改善を目指すことは不可能ないし著しく困難となってしまいます。
そこで、労働組合法は、使用者が団体交渉を正当な理由がなくて拒むことを、「不当労働行為」に該当するものとして禁止しています(労働組合法7条2号)。
さらに、使用者が形式的に団体交渉に応じたとしても、誠意ある対応がされなければ、団体交渉は「絵に描いた餅」になってしまいます。
このような事情から、使用者は、団体交渉の申入れに対して、誠実に対応する義務を負担していると解されています(カール・ツアイス事件。東京地判平成元年9月22日)。これを使用者の誠実交渉義務と言います。
誠実交渉義務の対象(義務的団交事項の範囲)
団体交渉権は、労働者の労働条件の改善のために認められたもので、これ以外の目的でされた団体交渉の申入れについてまで、使用者に誠実交渉義務を認める必要はありません。
そこで、義務的団交事項の範囲については、労働組合の構成員である労働者の労働条件その他の待遇や団体的労働関係の運営に関する事項であって、使用者が処分可能なものと解されています。
例えば、賃金、労働時間、休息、配転、懲戒、解雇といった事項については、労働条件に関する事項に該当し、義務的断交事項に該当すると解することができます。
また、経営、生産管理等に関する事項についても、労働者の労働条件や待遇に影響を及ぼす場合は、義務的断交事項に該当しますので、団体交渉に応じる義務があります。例えば、事務所の移転は、使用者の経営判断に属すると解されますが、事務所の移転に伴って、労働者の配置転換がある場合は、義務的団交事項となります。
「誠実な対応」とは?
では、団体交渉において、使用者の対応が「誠実」と評価されるためには、どうすればよいでしょうか。
一般的には、労働組合の要求を検討し、応諾できない要求に対しては、その根拠・理由を十分説明し、合意形成ができるように努力する必要があると解されています。
反対に、最初から労働組合と合意する意思はないと宣言し、あるいは、労働組合の要求を拒否するのみで、その根拠を示さず、対案も示さないといった態度は、誠実交渉義務を果たしたとはいえないでしょう。
団体交渉を打ち切ることは可能か?
使用者には、団体交渉において、誠実に対応する義務はありますが、労働組合の要求に応じる義務まではありません。労働組合の要求に対し、「誠実な対応」を行い、その結果、合意に至らず、交渉を打ち切ったとしても、誠実交渉義務に反するわけではありません。
ただし、団体交渉を打ち切った場合、争議行為等に発展するおそれもありますので、注意が必要です。
弁護士に相談することの重要性
労働組合は、団体交渉の経験が豊富であるのに対し、使用者側は、団体交渉対応の経験がなかったり、あっても少ないことが多く、誤った対応をしてしまう場合が見受けられます。
弁護士に委任し、団体交渉に立ち会うことにより、会社の言い分を労働組合に伝えるとともに、妥当な解決を図ることが可能です。このような事情から、団体交渉の申入れがありましたら、弁護士に委任することをお勧めします。