内定取消における留意点
はじめに
新型コロナウイルスによる業績の悪化により,内定を出した学生に対し,これを取り消したいと考えている企業もあると思われます。しかし,業績の悪化といった企業側の都合で内定を取り消すことは,法的に問題が生じる場合があります。
内定とは
一般に「内定」とは,企業が学生に「採用通知」を交付し,学生が企業に「入社承諾書」を提出することによって相互に意思確認をした状態を指します。そして,この「入社承諾書」には,他社への入社の機会を放棄する意思が含まれている場合のみが該当するものと考えられます。なぜなら,内定によって法律上,始期付解約権留保付労働契約が成立すると言われているところ,他社への入社の機会を放棄している場合にのみ,労働契約上の保護が与えられるべきだからです。
内定の取消が認められる場合
このような「内定」が成立している場合,企業の勝手な都合で内定取消をすることはできません。労働契約が成立している以上,業績の悪化を理由に内定を取り消す場合には,整理解雇の場合に準じて可否を判断すべきであると解されています。すなわち,①人員削減の必要性,②人員削減の手段として内定取消を選択することの必要性,③対象者選定の妥当性,④手続の妥当性を満たして初めて,内定取消が許容されます。
②は,要するに,内定取消という手段を採る前にこれを回避するために相当な努力をしたかが問われるということであり,これは,①人員削減の必要性(業績悪化の程度)との関係で定まります。
③については,一般論としては,業務について一定の経験がある正社員より,経験のない内定者の内定を取り消すことに合理性があると考えられます(インフォミックス事件・東京地方裁判所平成9年10月31日決定)。
勿論,対象者に対し,④内定取消に至る経緯等を十分に説明し,協議を重ねて理解を得ることが必要であることは,整理解雇の場合と同様です。この場合,協議に合わせて,一定の補償金ないし和解金の支払いを提示することも広く見られるところです。
内定に至っていない場合
内定に至っていない場合(「内々定」に留まる場合),対象者は,他の企業への就職活動を継続することもできるのであり,原則的には,内々定の取消が違法視されることはないと考えられます。
しかしながら,コーセーアールイー[第2]事件(福岡地裁平成22年6月22日判決)では,正式な内定通知2日前に,業績の悪化を理由に内々定を取り消したという事案において,「労働契約が確実に締結されるであろうとの被控訴人の期待は,法的保護に十分に値する程度に高まっており,…採用についての方針変更について十分な説明をせずに,本件内々定の取消を行い,被控訴人からの抗議にも何ら対応しなかったこと」などから,企業に慰謝料の支払いを命じており,内々定に留まるからといって,自由に取消ができるということにはならないことがうかがわれます。
内定取消による企業名公表等
新卒者の内定取消は,ハローワークに事前に通知することが義務付けられており(職業安定法施行規則第35条2項),かつ,内定取消に対するペナルティとして,以下の場合,厚生労働省のウェブサイトで企業名が公表される場合があります(同第17条の4)。
・2年以上連続して内定を取り消した場合
・同一年度内に10名以上に対して行われた場合
・事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められない場合
・内定取消の必要性について内定者に十分な説明を行わなかった場合
・内定取消の対象者の就職先確保に向けた支援を行わなかった場合
まとめ
このように,内定の取消については,種々の要素を総合考慮して採否を決定する必要があり,また,対象者に対して十分な説明・協議が必要であることから,専門家に相談する意義は大きいといえます。