ハラスメントが他の従業員に及ぼす悪影響

ハラスメントとは

「ハラスメント」(Harassment)とは,いわゆる「嫌がらせ,いじめ」を言い,他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく,相手を不快にさせたり,尊厳を傷つけたり,不利益を与えたり,脅威を与えることを指します。その種類は様々(パワー・ハラスメント,セクシャル・ハラスメント等)で,かつ,いろいろな場面で生ずることが想定されますが,本稿では職場におけるハラスメントについて,それが他の(周囲の)従業員に及ぼす影響について考えたいと思います。

 

ハラスメントが企業に与える悪影響

まず,私たちの社会の中でも,職場は典型的な「縦社会」となっており,その結果,上司と部下の関係において上司は部下を一人前の人間として扱わない傾向があり,そのことが他者である部下の人格を軽視する言動に結び付きやすく,このような関係の中でハラスメント,特にパワー・ハラスメント(パワハラ)が発生してくることになると考えられます。

パワハラの発生要因としては,従来から不当労働行為による組合敵視や思想差別などがありましたが,近時においては,リストラの手段として用いられる「いじめ・パワハラ」が典型例であり,例えば,「会社の方針に異を唱えたので,会社としては解雇したいが合理的な理由が見つからない」「業績不振で退職勧奨したいが本人が承諾しない」といった場合などに,会社ぐるみで仲間外れにしたり雑用をさせるなど精神的に追い詰めて,自発的に退職するように仕向ける場合などがあります。

もとより,こうした行為の対象となった労働者(被害者)が組織から排除され働き続けられないこととなれば,その労働者にとっては,身体的,精神的な直接の被害に加え,職を失い収入の道が失われることとなり,社会に参加し,自分の力を発揮する道を閉ざされるという不利益が生じます。

しかしながら,職場におけるハラスメントは,被害者自身にこうした重大な不利益をもたらすばかりではなく,職場環境全体への被害も与えることがわかってきています。例えば,中央労働災害防止協会が2005年に実施した「パワー・ハラスメント実態調査」(東証一部上場企業209社が回答)では,「いじめ・パワハラ」等が企業にもたらす損失として,「社員の心の健康を害する」(82.8%),「職場の風土を悪くする」(79.9%),「周りの志気が低下する」(69.9%),「生産性が低下する」(66.5%)等を挙げており,職場におけるハラスメントが被害者の周囲の従業員にもたらす深刻な影響,職場環境の悪化・劣化の実態が明らかになってきています(なお,直接の被害者の周囲の人が「不快な職場環境は何とかならないのか」などと間接的な被害を訴える場合があり,そうしたケースでは訴えてくる従業員にも当事者性があることに注意すべきです)。

とりわけ,近年,職場はどこでも,企業間の激しい競争の中で職場環境が激変しており,例えばリストラで従業員が減少したことによる仕事量の増大や,長時間の過重な労働によるストレスを要因とするうつ病などの精神疾患を罹患する労働者が増加しています。

ここに,さらに職場におけるハラスメントが加われば,職場環境の悪化・劣化は一層進行し,結局,職場全体に欠勤率,離職率の上昇等,ひいては生産性の低下などの重大な損失,悪影響が生ずることとなるのです。

会社としてすべきこと

もとより,上述のような状況を放置すれば,会社にとって重大な損害が生じ得ることは自明です。また,使用者は被用者に対し「報酬を与える」という雇用契約上の本来的義務を負うのみならず(民法623条),信義則上の付随的義務として,労働者にとって快適な就労ができるように職場環境を整える義務(職場環境配慮義務)を負っていると考えられています。

したがって,会社は,労働者の快適な就労の妨げになるような障害(職場いじめ,職場八分,各種ハラスメント)を服務規律で禁止する等して,その発生を防止するとともに,これらの非違行為が発生した場合には,直ちにこれを是正すべき義務を負っているということができます。また,非違行為の発生を覚知できなければ,そもそも,その是正の端緒を得られないわけで,その意味で,会社内における情報収集体制についても整備をすることが求められます。

このように,ハラスメントの防止ないし是正にかかる適切な対応は法律上の義務であると評価できるとともに,会社における人的・経済的損害の発生を未然に防止することにも繋がるのです。これはまさに「企業価値」を高める行為である,といえるのではないでしょうか。

お困りの企業様は弁護士にご相談ください

とはいえ,規律の作成,対応する組織の構築,情報収集・・・と,やるべきことは多岐にわたり,加えて,規律や組織作りにおいては各種法令への適合性も求められます。日々,会社としての本来的業務を遂行するほかに,こうした制度を構築し,維持していくことは,相当の困難を伴う場合も考えられます。

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