相続法改正による遺産分割前の預貯金債権の行使
1 預金債権は遺産分割の対象となるか
~最高裁平成28年12月19日決定、最高裁平成29年4月6日判決
従来の判例法理によれば、相続財産である預貯金債権は、可分債権にあたり、相続と同時に当然に分割され、各共同相続人は自らの相続分に応じて債権行使が可能となり、また、当然に分割される結果、可分債権は遺産分割の対象にならない、と理解されていました(最高裁昭和29年4月8日判決、最高裁平成16年4月20日判決)。
最高裁平成28年12月19日決定は、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。」と判示しました。
本決定は、貯金債権が相続開始と同時に当然に分割される旨を判示した最高裁平成16年4月20日判決を変更する旨明示しています。
2 一部の相続人による単独での払戻請求の可否
従来は、預金債権は可分債権であって、相続開始とともに当然に分割されると解されていたので、理論上は、共同相続人の各々がその相続分に応じた金額を個別に支払請求することが可能である、と理解されていました。
もっとも、多くの金融機関は、主としてトラブル防止の観点から、相続が発生すると原則として当該口座に係る出入金はすべて止め、全相続人の承諾がある場合にのみ出金を行っていたようです。
最高裁平成28年12月19日決定によれば、預貯金債権は、原則として民法264条の準共有状態になると解するのが自然です。
そうすると、民法251条により、一部の相続人による単独での持分相当額の払戻請求はできないことになると考えられます。
3 遺産分割前の預貯金債権の行使
最高裁平成28年12月19日決定による判例変更を受けて、理論上も、遺産分割前は、共同相続人全員の同意がなければ、自己の法定相続分相当額であっても、単独で預貯金債権の払戻しができないことになりました。
しかし、これでは、相続人に急に資金需要が生じて、故人の預貯金債権を払い戻したくなったときに、単独では払戻しができないことになり、不都合が生じます。
そこで、改正相続法909条の2は、各共同相続人は、相続開始時の預貯金債権の債権額の「3分の1」に当該相続人の法定相続分を乗じた額を上限として、単独でその権利を行使することができる、としました。
この額は、法務省令によって、150万円を限度とするものと定められました。
改正相続法は、原則的に令和元年7月1日からの施行となります。
今後は、被相続人の死亡による口座凍結の際の預貯金の払戻しにも、一定範囲で対応ができることになります。