株式の相続の例

 事業承継をする場合には、会社の支配権、すなわち株式をいかに後継者に集めるかが重要です。少なくとも、特別決議の要件である3分の2以上を後継者が有するようにすることが肝要です。
 しかし、遺言など特に何も残さずに株主が死亡すると、株式は相続制度に従って、共有状態になります。この共有状態は、原則、遺産分割協議が成立するまで解消しません。
 なお、株主権は「所有権以外の財産権」であるため、株式の場合、所有権に関する「共有」ではなく、「準共有」になるということもあります(民法264条)。しかし、細かい話であり、ここでは「共有」と表現します。

【事例1】

 A社は、株式の80%を甲が、残りの20%を甲の妻である乙が所有する株式会社である。
甲の相続人は、妻乙、長男丙、長女丁である。
 甲は、A社を長男である丙に継がせたいと思っており、丙としても承継はやぶさかでなかったが、甲が、ある日、突然、死亡した。甲は、遺言等を残していなかった。
  甲が所有していたA社株式は、相続により、妻乙が2分の1、長男丙が4分の1、長女丁が4分の1の割合による共有状態になった。
 その結果、A社株式は、妻乙が60%、長男丙が20%、長女丁が20%保有することとなった。
 乙、丙、丁の仲は険悪であり、遺産分割協議が成立するまで相当な時間がかかる。

 会社法106条によれば、株式の共有者は権利行使者を定めて会社に通知しなければ、権利行使ができません。ただし、会社が自身でリスクを負って権利行使者の通知を欠く共有株式の権利行使を認めることは自由です。なお、条文に書かれていませんが、「特段の事情」がある場合には、権利行使者としての指定なしに株主としての権利行使を認めた判例が存在します(最判平成2・12・4、最判平成3・2・19)。
 共有者による権利行使者の決定は、通常、共有物の管理行為として、持分価格に従いその過半数でなされます(民法252条本文。なお、最判平成9・1・28参照)。
 


【事例2】

 上記事例1の後、遺産分割協議が整っていなくても、とりあえずA社の意思決定をしていくため、乙、丙、丁で権利行使者を定めることにした。しかし、乙、丙、丁の仲は険悪であり、話合いでは権利行使者が定まらなかった。
 そこで、持分の過半数を持つ乙が、乙自身を権利行使者と定め、A社に通知した。
 ※ ただし、乙が権利行使者として決定される要件を満たすかについては、上述したところと異なる解釈をとる説もあります。

また、仮に、遺言があったとしても、その内容によっては遺留分侵害などの問題が起こりえます。
 


【事例3】

 上記事例1と同じ状況で、甲は、生前、甲の財産すべてを長男である丙に相続させる旨の遺言書を作成していた。
 甲死亡後、この遺言の内容を知った妻の乙は、この遺言が自身の遺留分を侵害するとして、丙に対し、遺留分減殺侵害請求を行った。

【事例1】、【事例2】のように、生前、遺言など何らの対策もしていないと、後継者(丙)に継がせたいと思っていた被相続人(甲)の意向に沿わない結果が生じることがあり、場合によっては会社の運営・存続自体に影響がでることもあります。
 そうかといって、遺言の内容も吟味しないと、【事例3】のように、親族間での争いが生じます。そもそも、株式承継するのに遺言が適切な方法かの検討も必要です。
相続について、相続税対策の観点から対策をしているという方も、上述してきたように、株式の相続による共有の問題は、法的な問題を多く含むので、弁護士に相談しておくことが大切と思われます。